トイレという閉ざされた空間で、新しい広告の動きが生まれています。ただ単に個室で広告を見せるだけではなく、「広告を見ることを前提としたサービス」も生まれ始めました。今回はトイレよろしく「密やかなマーケティングトレンド」をお伝えします。
■目次
引用記事
広告に便利な所 それはトイレ
商業施設やオフィス 個室に電子看板 情報空白タイムに流す
記事要約
- 商業施設やオフィスの個室トイレが広告媒体に変身している。デジタルサイネージ(電子看板)や印刷したトイレットペーパーを活用。おひとり時間にそっとお邪魔し、ささやくようにアピールする。視線を奪い合うライバルの少なさ、性別など属性によるターゲティング、社会課題の解決などメリットがてんこ盛り。トイレを侮るなかれ、実は広告に便利な所だ。
- トイレ広告の特徴の1つは視聴者の性別が確実に分かること。さらにバカンは導入数の8割をオフィスビルが占め、年収水準など働く人の属性から見せたい対象を絞り込める。鈴木慎介メディア事業本部長は「ターゲット層が明確な広告は特に相性がいい」と説明する。例えば50代の社員が多いオフィスなら、介護サービスなどの注目度が高いと想定できる。
- トイレでは音声を流せないため、テロップの大きさや色が重要になる。街中では凝視しにくいコンプレックスに関わる商品の広告も見てもらいやすい。「人の目が気にならないため『この商品を自分が使ったらどういうメリットがあるだろう』と、自分事として捉えてもらいやすくなります」と滝口さん。語りかけるような広告が向いているという。
- オイテル(東京・港)は21年、トイレの個室で生理用ナプキンを無料提供するサービスを始めた。専用アプリを入れたスマホをサイネージにかざすと、ナプキンが出てくる。1度受け取ると次回まで2時間空ける必要があり、取り過ぎを防いで多くの人が利用できるよう工夫している。
- 無料のナプキンの原資となっているのが広告料だ。オイテルの飯崎俊彦さんは「社会課題をビジネスで解決しようと考えたときに、浮かんだのがトイレ広告でした」と振り返る。商業施設や大学など約180の施設に計2500台のサイネージを設置しており、アプリのダウンロード数は60万に上る。
- オンラインピル処方アプリ「スマルナ」を手掛けるネクイノ(大阪市)も、22年7月から同様のサービスを始めた。同社の福永有理さんは「最近のデジタル広告は(プライバシー侵害など)何かと嫌われてしまうこともありますが、人の困りごとを解決するための味方にもなります」と期待を込める。
ポイント解説:広告という価値交換をパーソナルに
そもそも、地上波民放が無料なのにさまざまな番組を観れるのは、番組制作や放送局の運営に必要な資金を広告費で賄っているから。広告費とは多くの場合、「ある有益な情報を提供するためのコストを、広告費というスポンサードによって充当することで、それらの情報を必要とする人たちにコスト負担なく情報を供給する」という社会的なメリットの提供のための手段であることが多いです。
今まではテレビとか新聞といったマスメディアにおいてそうした価値提供が行われていましたが、スマホなどのデジタルパーソナルデバイスの普及により、マスメディアだけではなく本当に小さなメディアですら、広告費を受け取ることで役にたつ情報や機能を提供できる仕組みが出来つつあるというのが、今回の事例の本質だと思う。
ただし、ありとあらゆることが広告収益で運用・継続されるようになると、私たちは無料で色々なサービスを受けられる一方で、宣伝を受けないと生活コストがあがるような社会もどことなく違和感があります。この問題をクリアするのに重要なのは、「妥当性」なんだと思う。妥当性とはつまり、消費者が「自分に向けてこんな広告が出てくるのは、自分の気持ちをよく理解してくれているな。」と感じてもらえるかどうかということです。これがないと、どんな広告も「鬱陶しいし、嘘ばっかり」と思われて販促はそこから先に進めなくなってしまうのではないでしょうか。
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自社のマーケティングに活かすには?
広告を見せることを、自分都合ではなく相手への貢献として設計できるかどうかが重要です。広告は元々「何かを知らせることで、それを知った人の人生がより良くなる」ことを志向するべきであって、自社の都合で見せたいものを見せていれば、見た人から「鬱陶しいな」と思われるのは仕方のないことです。都市景観の保全のために看板などを出さないように規制されるのは、前提として看板が周囲との調和を無視すると思われているからです。
周りの空間と調和をしたり、見る人の状況や心境を思いやりながら、気持ちに寄り添いながら届ける広告は交換を持たれやすいわけですが、その一つの手法が、「広告を見てもらうことで、今のあなたに必要なものをお渡しします」という今回の生理用ナプキンの事例です。本質的には、ショッピングモールなどで、アンケートに答えると子供向けの風船がもらえるようなブースと変わらない部分もありますが、とはいえ発案者が「エンドユーザーの課題を解決するために、広告モデルを使おう」という形で、エンドユーザーのことを考えながら仕組みを設計しているのは大切な感覚だと思います。