キッコーマンがハンドドリップ方式のダシを発売し、クラウドファンディングで人気を博しています。仕事の合間などにコーヒーや紅茶の代わりに飲んでもらうことを想定しています。かなり奇抜な挑戦に思えますが、一体どんなマーケティング戦略がその裏に潜んでいるのでしょうか?
【引用記事】「飲むだし」で心もホッと キッコーマン飲料がD2Cで展開 ドリップで手軽、習慣化目指す
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80144800V10C22A2HF0A00/
【記事要約】
・新型コロナウイルス禍でステイホームやリモートワークが定着する中、仕事の合間に自分でコーヒーや紅茶をいれ、リフレッシュしている人も多いだろう。だが、自宅の気軽さからか、つい飲みすぎてしまい、カフェインの取りすぎが気になったり、味にマンネリを感じたりすることもしばしばだ。そうしたコーヒーや紅茶の置き換えニーズを捉えて伸びているのが、小腹がすいたときにも最適な即席スープや昆布茶など。ここに新たな選択肢として斬り込もうとしているのが、キッコーマン飲料が提案する「YOHAKU Drip(ヨハク ドリップ)」と名付けた「飲むだし」だ。
・飲むだし開発のきっかけは、商品担当である藤元康平氏のある体験だった。以前、九州支社に勤務していたおり、東京への出張のたび、飛行機内のドリンクサービスで必ずコンソメスープを選択していた。「出張では多かれ少なかれ緊張する。でも、機内でコンソメスープを飲むと、すごくほっとした。これは、ほかの飲み物では体験できない感覚。これを日本食の基本である『だし』を使ってやってみたい」と考えたという。思案を重ねる中でたどり着いたのが、ハンドドリップでいれる方式だ。マグカップなどにだしの入ったパックをセットし、ゆっくりと熱湯を注ぐ。そのままパックを湯に1、2分浸して、十分にだしの味を引き出す。
・飲むだしをめぐっては、いくつかのメーカーが既に商品展開しており、これらは一定の認知度を持つが、だしを飲み物として楽しむ習慣は、まだ一般に定着しているとは言い難いだろう。だが、日本でウーロン茶が定着し、米国で甘くない緑茶の人気が高まったように、新しいドリンクが定着する余地は無限だ。キッコーマン飲料では、「まずは『だしを飲む』ことを定着できるように取り組みたい。将来的には『だしを飲む』ということを5億~10億円の事業にできるように尽力したい」(藤元氏)と目標を掲げている。
【ポイント解説】コアタイム以外で売る
・スープやダシを飲むタイミングといえば、食事や軽食のとき。では、それ以外の時間にスープやダシを飲む提案はできないだろうか?今回は商品開発担当者が、「移動時間中に飲むコンソメスープにホッとする」という個人的な体験が開発のきっかけだが、この「隙間時間」への着目は重要だった。これがもし「ランチタイムにスープを飲むとホッとする」だったら、なんの目新しさもない。
・普段ならダシやスープを飲まない時間に、あえて飲むことで何を感じるか。これは一種の「逆張りマーケティング」。世の中の多くはそこにニーズを感じていないからこそ、競合も少ない。そこに「コーヒーや紅茶ばかり飲んでいてカフェインの摂りすぎが気になるときに、ダシを飲むのはギルティフリー(罪悪感がない)だ」という気づきを得て、商品コンセプトが決まっていったのだろう。
・「ホッとする時間」を提供するために、商品クオリティにもこだわっているが、まずは市場が出来上がっていないので、最初のうちは啓発活動が必要。初期のマーケティングコストは安くないだろうが、健康志向や日本食人気などから、ある程度市場創造ができると踏んでの事業計画なのだろう。
【関連リンク】
・YOHAKU Drip(ヨハク ドリップ)https://yohaku.kikkoman.co.jp
・クラウドファンディングページ https://www.makuake.com/project/yohaku/
【自社のマーケティングに活かすには?】
・自社の商品やサービスが主に購入、利用される時間帯はいつですか?そのコアタイムで売ることを一旦忘れて、そうでない時間帯で商売をしようと思ったら、どう売ればいいかを考えてみましょう。
・その時、今打ち出している商品、サービスのセールスポイントにこだわらないでください。それよりも、今売ろうとしている時間帯に求められていることを考えましょう。例えば今回のケースのダシであれば、風味や味わいを売るのではなく、「ホッとする」「カフェイン疲れ」などがポイントです。
・あらためて、自社の商品、サービスでその「求められていること」を実現するにはどうすればいいか考えてみましょう